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K学園のM君のエピソード

 今回のエピソードは、超進学校の授業の内実といったものを語ってみたいと思います。
 話は、弊塾を立ち上げ、数年後のことです。「ああ、とうとう、あの天下にとどろくK学園の生徒がうち(英精塾)にも来ることになったか!」と感慨深く呟いたものです。このK学園とは、国立のT大学に、日本で最も合格者を送り出している、私立の中高一貫校でもあります。天才・秀才の巣窟でもある、言わずと知れた名門校です。その生徒は、中学2年の2学期に入塾してきました。そのM君(※彼は、その後T大学の理科三類に進学しました)は、初めて私の授業が終わった時、他の生徒が教室から出て行き、彼一人、教室の後ろに立ったまま、残っていました。
 「何か、分からないことでもあったのかい?教え方が、学校(K学園)の英語の先生より下手くそだったのかい?」と、彼の表情と学校のレベルとをおもんばかって、少々不安げ気持ちで、聞いてみました。すると、
 「いや、全然違うんすよ!超分かりやすくて、感動したくらいです。学校の英語の授業とはまったく逆、違うんで、もう感激しちゃって…」と口にするなり、無表情から、喜びの微かな相が、笑みへと、急に変わっていった一瞬を今でも忘れません。
 「へえ!そんなによかったかい?」
 「勿論ですよ!」とはっきり言った。
 その時まで、やはり、K学園のことだから、さぞかし、緻密に、丁寧とまでは想像してはいなかったが、まあ、理路整然と授業を進めているのではという心持でいたので、M君の授業後の反応で、少々、予想外の戸惑い、ある意味、うれしい驚きさえ、その場で覚えたものです。
「じゃあ、聞くけど、K学園の授業ってどんなの?」
すると、間髪入れず、二人だけの、少々遠慮気味で、何か言いたげな佇まいを押させていたのが感じられていたが、いきなり、
「学校の授業っていい加減なんすよ!」と、強い口調で言い放った。まるで、学校の英語の先生に、公然とプロテストするかのような、キリットした表情で、更に
「学校で、英語の進み具合というか、進度というか、カリキュラムというか、超いい加減なんですよ、例えば、授業で、“来週やる箇所は、仮定法にしょうか?それとも、関係副詞でもやるか?”“いや、先生、分詞構文をやろうぜ!”“話法の転換というやつやりましょうよ!”とクラスの他の生徒から、リクエストが飛び出す始末で、そんなもん、僕にはちんぷんかんぷんの項目で、その場で黙ったままでいたんすよ。いきなり、先生から、“来週、何やる?”と聞かれたって、出来る奴、また、塾や予備校に通って、先取りしてる奴には、問題ないかもしれないけど、学校の授業をあてにして勉強している生徒、即ち、塾も予備校も通っていない奴には、いい迷惑、いい加減な授業と言わざるをえないと思うんですよ」
 その場で、なんとなくは、予想はしてはいたが、‘私の超進学校の仮説’とやらが、明瞭に、このM君の発言で、検証されたことを確信した時でもあった。
「へえ!そんなんだ、K学園の授業って?」と、確認の質問をする。更に加えて「じゃあさ、英語だけだろう?そういうM君が愚痴る授業って?」
 「いいえ、英語だけじゃあないですよ。数学もですよ。僕、中学2年じゃあないですか?それなのにですよ、その数学の先生って、“ええと、今日は、ちょっとセンター試験の問題を持ってきたので、みんなに解いてもらうことにする。いいね?”と、こんな感じで、まだ、中学の半分しか来てないのに、大学入試のセンター試験をやらせるんですよ。無謀じゃあいないですか?もう、頭にくるって、内心怒りまくっていましたよ」
 ああ、やっぱり、日本一の超進学校ってこんなもんかと、その場で、合点がいったものです。
 そのM君の入塾の、数年前だったか、週刊朝日だったと思いますが、このK学園の教頭か、確か英語科の主任教師だったと思いますが、次のような発言をされていたことを、思いだしました。
 
「我が校(K学園)に入ってくる生徒は、中学受験で相当勉強し、優秀なお子さんが多い。なお、彼らは、公立の小学校に通われて、学校は遊びの場、塾(サピックスや日能研など)が真剣勝負の勉強の場、そうした、はっきりと区分けされた環境で数年間過ごされてきて、本校(K学園)に入っても、その習慣が抜けきれない生徒が多い、従って、授業はのびのびとやらせているのです。生徒の自主性で、やらせている。勉強も、やりたい生徒、先取りしたい生徒は、恐らく塾など(鉄緑会やSEGや平岡塾など)に通ってるようなので、放任主義で教えています」{※私の記憶で、それもその記事は今手元にはないので、だいたい以上のような内容を語っていたことだけは確かです}
 
 そのK学園の担当者が以上のような発言をされていたことと、このK君のことばと、見事のその信憑性が、嘘ではないことがはっきりもしたのです。
 
 それから、2014年、『教えて!校長先生 「K学園×N学園式」思春期男子を伸ばすコツ』(柳沢幸雄+和田孫博)[中公新書ラクレ]という本が出されましたが、その中でK学園校長の次のような発言が、十年数年前のM君の発言の‘K学園の学びの慣習’とやらが、不変であることの確たる根拠にもなっているかと思います。
 
「教員は、生徒の誰ひとりにも“T大を受けなさい”とは言いません。勉強だけでなく学校生活についても、いちいち指図しません。こうしなさい、あれはしてはいけませんと手取り足取り教えることがいわゆる“面倒見”だとしたらKは、むしろ“面倒見の悪い”学校です」(柳沢幸雄)
 
 以上のような内容は、何も、K学園に限ったことではないかと思います。弊塾に、K学園の生徒の何倍もの男子が入塾してきた学校が、そのK学園の次に東京都でT大学に合格者を輩出しているA学園です。そこの英語の授業も、ある意味K学園以上に、雑駁で、放任主義、教科書もプログレスを使用していた時期にしろ、文部省検定教科書クラウンだけを使用していた時期にしろ、学校で英文法の必要最低限の知識、公立中学の授業と何ら変わらない、むしろ大雑把にしか、教えず、時たま、難しい大学受験レベルの問題(英文)を読ませたりもする、そうした実態を知った時には、もう驚きませんでした。
 これは、あくまでも、私の憶測でしかありませんが、「本校(K学園にしろ、A学園にしろ)に入学してきた生徒らの、自己学習の進度(塾なりに通ってどの程度先取りしているか)、また、地頭の高低(天才か秀才か、はたまたがり勉か)を量る意味でも、ちょっと、生徒に次のやる項目(仮定法とか分詞構文とか)を聞きただしたり、また、中学生でありながら、無謀にもセンター試験の数学問題を、抜き打ち的にやらせたりもしているのであろう。これは、高校生の段階になったときの、授業シラバス、カリィキュラム作成の試金石・参考資料にもしているのでは?」と、そうした学校の先生達の内面をおもんばかったものでした。
 K学園やA学園の生徒は、高校生になると、自身で自身を律するメンタルになる。それは、ちょうど、公立小学校低学年(1年~3年で)は公文式で中学受験な視野に、また頭にはないが、高学年(4年~6年)には、志望中学の意識が目覚め、進学塾に鞍替えするのと同じ心の変化に似てもいることでしょう。あの難しい問題をかいくぐってきた少年達は、競馬の最終コーナーを疾駆するサラブレッドように、(準)トップギアーに入るのです。学校で、手取り足取りしなくても、また、懇切丁寧な授業を受けなくても、自力で、また優秀な友人にわからない箇所を聞く、また、進んで、駿台や河合塾、また東進などに、率先して通う生徒群に豹変するのです。それこそが、超進学校の勉学上の伝統とやらです。ある人の、テレビでの質問ですが「林先生、T大学に入る一番の方法はなんですか?」それに次のように応えています。林修氏いわく「そんなの簡単です。T大学に一番進学している学校に入ることです!」
 その林氏の回答の真意は、まさしく、中学の段階にはないのです。中学の段階は、恐らく、K学園にしろ、A学園にしろ、中学受験のガス抜き、息抜きの期間と私には思われてなりません。ある意味、サラブレッドの放牧期間です。これは、空想小説、またフィクションの世界での話ですが、日本の大学生は、4年後に、海外の一流大学に進学することを義務づけ、2年後卒業し、コロンビア大学なり、ロンドン大学なりの学士を有する者のみ、学生の人気投票ベスト20の大手企業の就活のエントリー必要条件とするようなシステムを作れば{※留学費の点を除外して考えてください}大学生の2人に1人くらいは、大学3~4年の期間超真面目に勉強することが想像されるのです。何も、こうした、やる気のある、また、出来る学生は、大学の授業が最低限度の知識しか教えなくても、自身はその数倍から数十倍自己研鑽に励むことでしょう。実は、大学生になっても、自助努力で、知識・教養を積む気質の学生こそが、K学園やA学園の高校生でもあるのです。
T大学は、みな、遊びまくる学生、また学業に支障をきたすようなアルバイトをする者は傍流です。すなわち、彼らは、中央競馬会(JRA)のG1レースに出場するサラブレッドでもある。栗東トレーニングセンター(T大学)で調教され、そして、皐月賞、ダービー、菊花賞を目指すのです。しかし、フランスの世界最高峰の凱旋門賞は、あの名馬ディープインパクトでさえ、名ジョッキー武豊が騎乗していても勝てませんでした。その凱旋門賞をゲットした欧州産のサラブレッドが、実は、ビル・ゲイツであり、スティーブ・ジョブスであり、ジェフ・ベゾスでもあるのです。

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