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麹町中学校の現況

日本経済新聞の見出しです。

 

ニッポンの革新力~人材強国への道2~

答えは教科書の外に

 

日本の政治の中心、永田町からほど近い東京都千代田区立麹町中学校。都心のど真ん中にある学校で9月「未来の教室」を目指す取り組みが始まった。

 生徒たちは、手元にタブレット端末をのぞき込んでいた。画面に問題が表れると、タッチペンで解答、解説を見て理解を深める。教師は生徒のサポートに徹して、黒板も教科書も使わない。

  さらば詰め込み

 この教材は教育関連スタートアップのコンパス(東京・品川)が開発した。人工知能(AI)が生徒の理解度に合わせて練習問題を出し、家庭学習でも使う。麹町中学校はかつて受験勉強を重視する進学校だったが、今では定期試験や宿題がない。AIを駆使した教材で効率的に知識を覚え、余った時間を企業や専門家など外部の力を活用し、自主性や創造性を育む活動に取り組む、教育の「オープンイノベーション」だ。

  省略

 …工藤勇一校長は「教育にパラダイムシフトを起こす」と意気込む。

 日本では、大量に知識を身につけ、しばらく正確に再現する教育が重視されてきた。詰め込み教育と非難されることもあったが、均等な人材を大量に育てることで、よい製品を安く作って売るという高度成長モデルが可能になった。 

 だが、AIやロボットが高度に発達した社会では、知識や業務遂行といった従来型スキルだけでは不十分だ。今までにないアイディアを生む力が欠かせない。改革を進めるため、閉鎖的と指摘されてきた教育界が外部に知恵を求め始めた。{日本経済新聞2018年10月11日の一面記事の抜粋}

 

 まず、この麹町中学校の立ち位置です。昭和の時代、越境入学までして、生徒が通う区立の名門中学校というものが存在していました。今でも、当然あるでしょうが、当時の比ではありません。この麹町中学校の外に、今川中学校、久松中学校、錦糸中学校など、私立の中高一貫の進学校に落ちた、また、超進学校の第一志望に落ちた生徒が、高校受験でリベンジを期すためにも、こうした東京の区立の進学校というものが存在していました。灘や開成が今も高校受験を行っていますが、昭和の時代は、高校生をも募集する私立の超進学校が多かったのです。私も、上記の或る中学校に通っていたので、当時の区立の進学校の内情は分かっているつもりです。友人には、開成の補欠になった者、「わざわざ補欠になってまで入りたくない」と豪語して、敢えてこの私も通った学校に来る猛者、また、慶應の附属校に落ちた者など様々な場末の秀才が集う場でもありました。そうした中学校も、少子化・都市化・国際化などで、合併や閉校となっている学校が多々あります。この麹町中学校は、今でも、恐らくその伝統は受け継いでいて、その筆頭格でもあるはずです。記事のなかで「麹町中学校は、かつては受験勉強を重視する進学校でした」という箇所がありますが、それは少々ニュアンスをぼかしています文科省依りの説明です。ご父兄にとっては、依然として、区立の名門であることに変わりがありません。というのは、現在、平成30年の今でも、区立の名門{※公立の進学校という意味です}御三家なる名称が存在しています。それは、千代田区立麹町中学校、文京区立第六中学校、そして江戸川区立清新第一中学校なのです。厳然として、この麹町中学校が、越境入学者が多数を占める名門区立中学校であり続けているのです。

 そもそも、この麹町中学校は、番町小学校⇒麹町中学校⇒日比谷高校⇒東京大学という、公立のある意味、≪エリートコース≫の一経路ともなっていた中学校です。その伝統は、番町小学校や麹町中学校に息づいているはずです。

 話は逸れますが、生徒にアルマーニの制服を着せる・着せないで話題となった泰明小学校も、バス・電車通学してまで通う区立の名門小学校です。銀座のど真ん中に位置しているこの小学校は、世の教育熱心な親御さんなら通わせたい小学校でもある。公立でも、お茶の水附属や筑波大付属の小学校に入れなかったが、慶應幼稚舎では敷居が高いと感じられるご父兄が通わせるタイプの小学校でもある。慶應大学の国文科の名物教授池田彌三郎氏などは、「自分は、慶應出身であるより、この泰明小学校出身であることが誇りだ」とまで述べておられた。その校風・伝統などが、どれほどのものであったか想像に難くない。その芳香を感じとれる親御さんが今でもこの区立の名門小学校に、ご子息を通わせてもいるのでしょう。

 番町小学校も、それに準じるレベルだと思われます。その上の、この麹町中学校では、学級崩壊・いじめ・不登校などの公立中学校、いわゆる、尾木ママに相談する、また尾木ママにご登場願う領域の教育問題には、無縁の中学校でもあるでしょう。更にまた、この麹町中学校は、高校受験に意識高い系の親子が当然通っているはずです。ですから、通塾率も当然高い一般の標準的公立中学校でやる英数国理社の基本知識は当然、進学塾でやっているはずです。ですから、この麹町中学校は、わざわざ、従来の暗記系・知識系授業は当然不要、むしろ、無駄とあいなる。だったら、最低限度の知識がある、学習意欲も高い、こうした麹町中学校で、記事で書かれている授業など、生徒に行うのは容易(たやす)いし、教師も教えるのもお手のもの、また手間もかからない、従って、政府、いや東京都や千代田区もこうした、実験的授業が可能でもあるのです。この麹町中学校の生徒は、プライベートでは、塾で従来の基本知識を学ぶ授業をしっかりと受け、パブリックでは、区立の中学校で未来を見据えたIT系の授業を受けている。こうした、二枚腰の教育を実践しているという実態に言及しなければ、世の親御さんは、また、標準的な公立の中学校に通われている生徒さんは、自分達は、遅れている、時流に取り残された教育的錯覚を抱かせかねない記事でもあるのです。

 この麹町中学校のバックグラウンドをくみ取り、東京都、いや千代田区は、税金から大枚をはたいて、生徒に最先端の授業を受けさせている実態が隠れてもいるのです。ある意味、優秀な生徒という前提での、先端教育のモルモットが、麹町中学校でもあるのです。この中学校で、こうした未来志向の授業を行ったからといっても、日本中にある、全ての公立中学校で、これと同じ成功事例が見られるか、それは、はなはだ疑問と言わざるを得ない。こうした授業は、慶應幼稚舎や青山学院初等部などで、“ゆとり教育”が、ある意味そこそこ成功するという環境的バックグラウンドが整った上での教育実験でもあるのです。

 

     最近、この麹町中学校校長工藤勇一氏の『学校の「当たり前」をやめた。』(時事通信社)の本が、アマゾンランキングで第1位となったそうです。陸上アスリート、世界陸上で銅メダルを取った‘哲人’ハードラー為末大の名言、「ボルトのやり方を真似てもボルトになれない」というものを考慮に入れて読まれることをお薦めします。『東大脳の…』や、『開成・灘の勉強の仕方…』などなどの書籍と同類の本です。


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