コラム

中学英語と高校英語の違い

 社会人・ビジネスマンの英語の学び方の観点から、中学英語・高校英語というものを逆照射して論じてみたいと思います。

 奇しくも、今月二冊のビジネス誌で、英語を対照的に特集しているものを購入し、読んでみました。一つは、『プレジデント』の2019年4月15日号の特集“中学英語でペラペラ喋る”というものです。もう一つは、『ニューズウィーク』の2019年4月9日号の特集“品格の英語”というものです。内容は、端折って言うと、後者が前者の英語を皮肉る、あざ笑うかのような視点に立っているということです。

 プレジデントの表紙の文言をすべて列挙すれば、以下の通りです。

 

タクシー運転手1万人が実証◎1200単語で大丈夫

中学英語でペラペラ喋る

9割通じた!60代でもできた!

 

 因みに、英語の負け組を対象に、まるで、文科省の使える英語の社会人バージョンの如きに、部数を販売する目的なのでしょう。昨年2018年4月16日号のプレジデントの特集も“たった1日、たった3語で話せる 「英語」の学び方”というものでした。NHKの英会話テキストの4月号が一番売れるのをマーケティングして企画した心根は見え見えです。恐らく、来年2020年4月某日号のプレジデント特集は想像できます。「オリンピックで来日する外国人に、この英語で通じる!」このような見出しで部数を増やす魂胆が見え見えです。

 

 この特集記事の内容は、ある意味、中高時代の英語の負け組、社会人の英語挫折組、非大卒でこれまで英語が必要なかったが急遽必要になった人達、こうした英語部族への励ましの特集でもあり、来年のオリンピックを見据えた、英語関心部族、つまり、‘英語がちょっと喋れたらいいなあ!’読者層への購買意欲をそそる特集でもあります。

 それに対して、ニューズウィークの表紙の文言は以下の通りです。

 

「簡単すぎる英語術」にだまされるな

英語の極意は品格

日本人が知らない品格の英語

グロービシュも「3語で伝わる」も現場では役に立たない

言語学研究に基づいた本当に通じる英語の学習法とは?

日本人がよく使うお粗末な表現(ロッシェル・カップ)

日本人の英語が上手くならない理由(マーク・ピーターセン)

 

 今月4月のこうした2つの雑誌は、まるで、ニューズウィークがプレジデントを揶揄しているかのようでもあります。

 使えない英語・しゃべれない英語を教えているとよく批判の対象となる学校英語ですが、私が、中学生・高校生と6年間にわたって生徒{※中1から高3まで在籍した生徒}を教え、その喋れない1番の原因は、中学英語を中途半端のままに、難解な高校英語へと無理やりステップアップしてしまうカリキュラムにあると言えます。これはデータなどないでしょうが、英検2級(高卒程度)の生徒でも、英検3級(中卒程度)程度の英語もぎこちなく口にはできるでしょうが、いざ、3級レベルの英文を書かせると、全く書けない生徒が2級タイトルホルダーの3分の2前後の比率でいるということです。まるで、中学数学の基本が脆弱の生徒に、高校数学の微分積分・三角関数などを教え込ませるのと同義であるとさえ言ってもいいものです。この高校生から大学生にわたり、“使える英語・しゃべれる英語を!”といった方針で、2020年度からセンター試験を廃止し、英検・TOEIC・GTEC・TEAPなど、4技能を試す資格系試験に代替される方針を文科省が出しましたが、特に、‘話す技能’などは、中学時代の中学英語の徹底的習得を慣行しなければ、付け焼刃の試験対策だけの“話す英語”で終わり、しゃべれない大学生の再生産とあいなることは目に見えています。

 サービス業関係の接待的英語であれば、プレジデントで特集した英語で構わないでしょう。まるで、ハワイのアメリカ人が、日本人観光客目当てに片言の日本語を覚え、使っているように、それで十分でしょう。政府は、文科省は、オリンピック、大阪万博などのインバウンド外国人のメイドか執事程度の英語をマスターせよと叫んでいるかのようでもあります。しかし、この程度の英語では、商社マンや、メーカーの駐在員、外資系企業勤務などでは、とてもじゃないが、通用しないといった趣旨で、ニューズウィークの特集が組まれたものと思われます。このニューズウィークの特集で必要とされる英語こそ、日本の高校英語というものを、会話やコミュニケーションでどれほど必要となるものかを自覚させてもくれています。厚みのある英語です。この高校英語、大学受験で求められる英語といったものが、ある意味“敬語の英語”でもあるということに気づいている者といない者が、実は、英語が、真の意味で使える社会人であるか否かの分かれ目でもあるのです。中学英語が、小学生が話す日本語、そして、高校英語が、中学生(また高校生)が話す日本語、これくらいに考えて頂くと分かりやすいと思います。

 デパートの店員の話す英語は中学英語(或る程度の丁寧さが必要)でいいわけです、しかし、商社マンの英語は高校英語(内容の濃さ、知的レベルが必要)が求められるのです。文科省の話せる英語とは、どのレベルをもって、話せると言っているのか、その棒引きが曖昧なのです。恐らく“プレジデント”英語に毛が生えた程度を言っているものと思われます。

 このプレジデント誌に昨年、そして今年も登場している英語講師が、安河内哲也氏なのです。今年のプレジデント誌で、信頼できるテキスト講師人気1位がこの安河内哲也氏でもあります。このカリスマ英語講師は様々なタイトルホルダーでもありますが、昔東進ハイスクールのコマーシャルで「英語なんて簡単さ!」と絶叫し、また、彼の本の中で「英文法は高校1~2年レベルで十分だ!」と書いてありますが、彼の英語道では、高尾山から富士山程度の国内の山を登る程度しか身につきません。東大京大、早慶などの難関大学志望の高校生には、意外や意外評判が宜しくないというのが実態です。そうです。サービス業かちょっとした英会話程度の英語では、十分なのですが、いざ、ヒマラヤ登山といった、難関国立大の二次英語やアカデミックイングリシュ(論文などの英語)では、途中下山を余儀なくされてしまうのです。今般、4月下旬英語教師へ励ましの気持ちを込めて書いた私の本が上梓されます。題名は『英語教師は<英語>ができなくてもよい!』(静人舎)というものです。その中で、こうしたプレジデント誌流の英語を、“ユニクロ英語”と命名しました。詳しくは、拙書をお読みいただくと納得いかれることと思います。また、この本の全体を流れている考えとほぼ同じものが、ニューズウィーク誌の特集のマーク・ピーターセン氏の寄稿コラムで述べられていたことに拙書の‘文科省への20の論題’といった副題は間違ってはいなかったことを改めて確信した次第です。


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