コラム

カジノは日本人には似合わない!

世界の常識は日本の非常識<Ⅱ>
 
  社長が二代、三代と続く中小企業、もしくは、大企業で一族経営をしているファミリーの家訓、また社是といったものに、「禁じている3G」なる文言があることは有名です。それは経営者としてやってはいけない三つの行為の頭文字であります。
 一つは、高級な外車のGです。次は、ゴルフのGです。そして最後はギャンブルのGです。一般的に、松下幸之助や稲盛和夫の書をバイブルとする経営者は、納得、首肯することでありましょう。やはり、日本人は、大正時代の船成金や一発屋的大成功を収めた大金持というものを心で疎遠なる実業家とみなす傾向があります。トランプ大統領のような一代でホテル王に登りつめた経営者というものには尊敬や憧れが湧いてこない民族的遺伝子、いや、江戸時代に完成した商人道の倫理観から生理的に好きになれない気質がある証拠です。
 恐らく、トヨタの社長、サントリーの社長、日清食品の社長{※これらの大企業はほぼ一族経営です}など、自家用車は、外車もあるでしょう{※トヨタの社長は当然国産車です}、また、経団連などの付き合いでゴルフをする方もいるでしょう。しかし、彼らが、競輪・競馬など、ましてやマカオやラスベガスのカジノでギャンブルをしたという風評など一切聞き覚えがありません。忙しい、いや、彼らにとって毎日毎日が緊張感の中で、“経営というギャンブル”をしているようなものだからなのかもしれません。多くの社員の運命を背負った緊張の毎日で、ギャンブルの緊張感・刺激感なんて比ではない日常におかれているからでもありましょう。
 欧米の実業家、また、中国の成金経営者、さらに、アラブの大富豪、こうした連中が、足しげく通うラスベガスやマカオで成功を収めたカジノというIRが、果たしてこの“賭博風土”が全く違う日本で成功するのか、このテーマで今回は語ってみたいと思います。
 シェークスピアの翻訳者で、私が最も敬愛する批評家の一人でもある福田恒存が、昭和20年代後半、まだ日本が焼野原の痕跡が残っていた時代ことです、ロックフェラー財団による文士の留学生で、アメリカに一年滞在した際のエピソードです。GHQの占領軍を通して知るアメリカ社会の豊かさが日本社会の貧しさと天と地ほどあった頃です。大型車で大型スーパーに大量の食料品、肉や魚、野菜など買い付け、大型冷蔵庫に蓄えておく光景、ライフスタイルを目にして、“アメリカ社会はなんと貧しいのだろうか!”と現地で呟いたと言います。一般人の感想とは真逆であります。彼は、逆に、日本社会の“豊かさ”に気づいたといいます。日本では、毎日毎日、魚屋、青果店など必要なだけ新鮮な食品を夕方買い出しに主婦が個人商店に出向き、(冷凍・冷蔵ではない)新鮮な魚や野菜を家族に必要なだけ作ってあげられるこの日本社会が、福田の目に<稀有なる豊かな社会>と映ったといいます。一般の留学生なら、この大量生産大量消費社会の象徴、大型のアメ車と大型冷蔵庫、そして、何キロもの肉の塊を数週間分買いだめしなければならないアメリカという世界一のパックス・アメリカーナを体現した国家へ、羨望と憧れの視線が向くのが自然・当然というものでしょう。しかし、福田の目と心と、そして頭はそうした感慨には向かわなかった、浸らなかった。その賢明さを本当の知性というのでしょう。実は、この福田の文明と文化というものを峻別する<怜悧なまでの知性>というものが、このグローバル社会に中でどれほど必要か、欠落しているか。そうしたものは、現代の日本では、一部の知識人しか持ち合わせてはいません。
 では、世界の王室に目を向けてみましょう。先日も、イギリス王室の確執、メーガン妃とエリザベス女王のいざこざがワイドショーでデーブ・スペクター氏によって、面白おかしく取り挙げられてもいました。勿論、日本でも小室圭さんと眞子様の婚約のごたごたもワイドショーを賑わわせていますが、その華美・ゴージャスな生活を分母とする次元のもの、比ではありません。ご存じの方も多いかもしれませんが、世界でもっとも質素にして、自我を押し殺している王室がまさしく、日本の皇室なのです。その典型は、明治天皇が、我が子大正天皇のために作った赤坂離宮、即ち今の迎賓館を御建てになった際、それを見て「あまりに豪華すぎる!」と語られ、それを聞いた大正天皇が終生お住まいになられなかったエピソードからもうかがわれます。日本の天皇家は、文明というより文化に軸足を置くことをモットーともしているからでありましょう。この精神は、トヨタやサントリーといった一族経営の大企業の社是とも通底しているものでありましょう。
 昔、アメリカの自動車大手GMの社長と課長の年収格差が、20億と2000万、そしてトヨタ自動車の社長と課長のそれは、1億5千万と1500万と聞きた覚えがあります。これは、カルロス・ゴーン前社長と西川廣人社長の年収などを比較すれば納得できましょう。
 経営者、皇室など、金品におけるスケールの規模が欧米と日本とでは、桁外れに違うのです。
 実は、こうした欧米尺度のIR即ち、カジノを日本に誘致する方向で今、日本中誘致合戦を繰り広げています。先日、林文子横浜市長は、カジノ誘致に名乗りをあげました。
 IR即ち、カジノというギャンブル場が、必要か否かといった問題が、横浜市の税収云々閑雲と理由に持ち出されてはいますが、私は、“ギャンブルのそもそも論”を語ってみたいのです。
 「日本の常識は世界の非常識、世界の常識は日本の非常識」を何度も申しあげます。日本には、すでに、競馬・競輪・競艇・オートレース、そしてパチンコといったギャンブル機関・施設が、富裕層{※日本の富裕層は、ギャンブラーというよりむしろ馬主(北島三郎や佐々木主浩など)になります}というより大衆・庶民に浸透しています。その浸透度といえば世界一です。また、パチンコや競艇・競輪に至っては、日本独自のものです。競馬に至っては、欧米や中東における関与層は、日本と比べ、全く肌色が違います。恐らく、この富裕層のお金、それも海外はもちろん国内にいたるまでそうしたお金を吸い上げようとする目論見でありますが、彼ら(富裕層)は、数億から数十億のお小遣い程度を損するにすぎません。それに対して、日本の庶民は、小遣いはもちろん、家族・生活、そして健康に至るまでむしり取られているのです。賢明な日本のお金持ち、堅実な経営者は、IR(=カジノ)などに手を染めません。海外のプチお金持ちや日本の“バカ”経営者は、絶好のカモになることでしょう。
 パチンコに代表されるように、すでに、日本は、大衆ギャンブル大国で、非常識なほど、生活の身近なところにギャンブル施設が跋扈しています。パチンコ(私鉄などの駅前には必ず一軒の店、場末に至るまで商店街に一軒)や競輪・競艇(場外馬券場・舟券場)など日本独自に発展してきたギャンブルです。国が元締めの次のようなギャンブルはすべて国の税収となります。それは、以下の通りであります。
 競馬は農水省、競艇は国交省、競輪・オートレースは経産省・totoは文科省、宝くじは総務省、パチンコは警察庁がそれぞれ管轄しています。
教育関係の文科省までも、totoをスポーツ振興目的で始めたほどです。横浜市や大阪市など、独自のギャンブルによる税収を増やしたいとの目論見でしょうが、このカジノなるギャンブル場が、果たして、すでに異様なギャンブル大国の日本で必要なのか?“パチンコという灰色のギャンブルを正式のギャンブルとして認め、地方の税収源として地方分権にでもすればいい論”(石原信雄氏:7つの内閣で官房副長官を務めた)もありますが、その灰色性と警察庁の権益で先には進みません。
 因みに、賭博依存症の比率は以下の通りです。
 
 日本   3,6%(320万人):国民全体に占める割合
 オランダ 1,9%
 アメリカ 1,4%
 フランス 1,2%
 イタリア 0,4%
 ドイツ  0,2%
 
 日本はカジノなどなくても断トツに賭博依存者大国なのです。私の極論ですが、カジノを作り、賭博依存症の人を激増させる明らかな愚策は、まるで、原発という目先の“利益”を優先し、その産業廃棄物がそのうちどうにかなるだろう的・短絡的発想で、原発を推進する方策と全くおなじものを感じずにはいられません。カジノによる賭博依存者は、まさしく、社会の“廃人=放射性廃棄物”と同じなのです。更に、その周辺の町の雰囲気の豹変、治安の悪化、風紀の乱れなど、放射能で汚染された福島第1原発周辺の避難区域とさえ思えてくる、「僕、あそこに行っちゃだめよ!」と幼子に、“港の見える丘公園”から母親が指さす山下埠頭へと趣をガラッと変える未来予想図が透けて見えてきます。2019年9月17日の神奈川新聞の一面記事で、「横浜市民の6割強がカジノに反対」という見出しで、アンケート調査が出ました。潜在的には、反対市民は7割強であるのが実態でありましょう。そうなのです。まっとうな市民は、<一族経営の会社の家訓「禁じている3G」>を無意識に弁えているのです。また、勤勉さで、またプロテスタントの倫理で資本主義が飛躍的に発展したドイツ(※日本の江戸時代の商人道と通底する)でさえ日本の賭博依存率と比べてみても雲泥の差があります。ただでさえ、パチンコ、競馬など、大学生からOL,また主婦に至るまでダービーや有馬記念などのG1レースで競馬場に足しげく通う光景が見られる国は稀有{※競馬における、オグリキャップやディープインパクトのようにスター馬(名馬)が“アイドル馬”として脚光を浴びる国}でありましょう。また、売れっ子女優と男優が4人で地上波のコマーシャルで“競馬はハッピー、楽しい、ファッションだ!”といったイメージを植え付ける国、これなんぞは、「カジノに通うのは、セレブの証よ!ファションだ!」といったCMも将来テレビで流されるのは目に見えています。昔、テレビで様々なタバコのCMが流されていた時代がありました。今では皆無です。また、たばこのパッケージには「健康のために吸い過ぎに注意しましょう」と摩訶不思議な但し書きが記載されてもいます。これを捩って、「健全な生活のためにギャンブルのやり過ぎに注意しましょう」とでも、カジノの入口に立て看板でも立てるおつもりなのでしょうか?
 しかし、一部の知識人、元長野県知事・元衆議院議員でもある作家田中康夫氏などは、あるメディアで「ミナトの見える丘公園が、カジノの見える丘公園になってもいいですか?」と舌鋒鋭く、論理的に理路整然と批判していました。良識ある賢者、日本人の精神風土・日本人気質を弁えている方、また、世界のカジノの実態・情勢を知っている者こそ、今般の横浜市のIR(カジノ)構想に反対してもいるのです。
 
 「アメリカの場合、カジノは郊外の隔離された場所にあり、日常生活でギャンブルできる場所はない」(高橋洋一)
 
 「パチンコが悪いとは思わないが、レジ袋からネギを出したような主婦が出入りしているような国は世界にない」(井川意高)
 
 「私に言わせれば、童貞と処女がAV作ろうと脚本を書いているようなもので、まったくピントがはずれている」(井川意高)
 
 「カジノは斜陽産業、経済活性化はありえない」(大前研一)
 
  井川氏などは、大王製紙の元三代目社長で、子会社の金100億円以上もカジノで使い込み莫大な損害を与えたかどで親会社から訴追され、投獄され、地位も名誉も全て失った、天国も地獄も見た、ホリエモンこと堀江貴文氏と同じ運命を辿った人物です。彼は、カジノというものを骨の髄まで知り尽くしています。その彼をして、林文子市長の考え・構想を浅薄だと、「(海外のカジノ資本家にとって日本というカジノ市場は)赤子の手を捻るが如し」と皮肉ってまでいる。また、世界的視座を持ち合わせている賢者、“経営の思想家”とも言えなくもない経営コンサルタント大前研一氏をして、時代遅れと言わしめている現実、これを横浜の市議会や県議会の連中はどう観ているのであろうか?
 2020年9月16日(月)の毎日新聞のインタビュー記事です。横浜のドンこと横浜港運協会会長藤木幸夫氏の発言です。
 
 「市は経済的に得るものの計算ばかりをしているが、失うものの計算もしなくてはならない。街の品格、イメージ、家庭。みんな失ってしまう。それを犠牲にしてまで、金は要らない。」

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