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大学生にも"帰宅部"というものがある

 突然であるが、大学生の帰宅部という謂いは、存在するのであろうか?

 現代、令和の時代であれば、うすうす感じられる、勘が鋭く働く人もいるのではないだろうか?学業、いわば、キャンパスには、卒業単位のため、最低限の授業に出席して、その時間以外は、アルバイトに明け暮れる日々を送ってもいる若者達のことである。奨学金を借り、自身の生活費は、親の仕送りもままならず、一般的なサークルや授業内の、ゼミの友人、先生などとは疎遠な生活を送らざるを得ない学生たちである。独自の謂いともなるが<ヤング・マイセルフ・ケアラー>とでも言ったらいいだろうか?「高校卒業までは、学費は出してあげられるが、その後の大学や専門学校などは自身で賄いなさい」と通告されている二十歳前後の若者といったらいいだろうか。

 世は、昭和末期から平成初期にかけて、ほぼバブルの時代とかぶる時期に、都会で学生生活を送っている若者は、大方、地方の親からの仕送りで学費、生活費を賄えた。自身でアルバイトをする者は、贅沢のため、ブランド品や、グルメレストラン、また、旅行やスキーに充てる費用を、活気に湧く社会からのおこぼれを頂戴できた時代でもあった。平成初期と平成末期以降では、地方からくる都会の学生への仕送り額など激減している状況はつとに有名である。失われた30年の日本社会の大罪の一つとも言える。
 私自身が、そういう身となった詳らかな事情・経緯は、この場では、言及しない。実は、弊著『ポップスの規矩』にそのことが、詳しく、私小説的に語ってもいる。この戦後最大の繁栄の時期、わざわざそうする必要もなかった社会で、私は、敢えて新聞奨学生として、浪人1年間、4年の大学生時代、合計5年間、新聞奨学生制度で、高等教育を修了した。

 この経験を、知人などに、ええかっこしい的に、プライドを交えた自嘲的な笑みを交えて、こう語る。「三島由紀夫の“俺は戦後と寝なかった”ではないが、私も、“僕はバブルと寝なかった”んだよ!でもね、それが、その後の自我を形成してもいる」と。

 新聞奨学生とは、朝夕刊を毎日配達し、月末の新聞代の集金を課せられる、その代償として、朝食(充実していた)や夕食(私の場合はなかた)、また、格安アパート(私の場合1万未満のオンボロアパート)などがあてがわれる、そして、返済不要の学費が支給される制度である。更に、月8万ほどの給与まで出される。地方の親が学費を賄えない子息は、この制度を利用して、上京し、この制度を利用して卒業してもゆく。しかし、私の働いていた専売店では、だいたい二人に一人しか、主に、蒲田の某専門学校を卒業できず、中退し、帰郷する者、また、途中で親が、学費の肩代わりのために上京して、Uターンしてゆく者、様々なティーンエージャーの落伍者を輩出する、少々過酷(?)な制度でもあった。
 昭和の、平成の、年季奉公制度というか、苦学生の吹き溜まりというか、一般学生には、まず、うかがい知れない時代遅れの勤労学生の後ろ姿が垣間見れる世界でもあった。
 渋谷や新宿の繁華街、同年齢の学生が、友人や恋人と、アフターキャンパスの時間を謳歌している街角を、カブのバイクや業務用自転車で、夕刊配達する光景や、クリスマスイヴにイタリアンレストランでのコンパや赤プリなどでの一夜を過ごす時刻を、新聞代の集金に明け暮れる日々。こうした宿命が、新聞奨学生というもののメンタルを鍛えるのである。

 私も、日吉や三田のキャンパスを遅くとも、4時限(4時10分終了)で切り上げ、急いで、横浜の場末でもある、吉野町の専売店に戻らねばならない身の上でもあった。5時前後から夕刊を配り、6時半過ぎまで自身の持ち回りの区域に新聞を配る。勿論、朝刊配達は、4時過ぎから6時過ぎまでやる。月末、月初の2週間は、夕刊配達後の集金業務に追われる。ご想像もつくやもしれぬが、新聞奨学生をしていると、キャンパスでの授業後、ゼミでの飲み会はもちろん、サークル活動など不可能である。それにであるが、少々遠回りをしてきて経験から、自身がキャンパスに足を踏み入れた時は、中学時代の友人世代は、もう、キャンパスにいなかったことも、新聞奨学生をやってもいいかな!と自問し、決意した遠因である。更にまた、配属先のこの新聞販売店の主人やおかみさん、そして番頭さん、従業員がいいひとたちであったという幸運もあった。きくところによると、悪徳販売店店主なる存在もあり、この専門学校生や大学生を学業二の次、業務優勢といったやり方で、自身の専売店の専売従業員に引きずり込む輩も業界にはあるとも聞いていたが、私は、恵まれてもいたようである。



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