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英検タイトルホルダーの実体

 ずいぶん昔のことですが、次のようななぞかけを聞いた覚えがあります。
 
 「博士号とかけて足の裏に付いたご飯粒と解く」「その心は、取っても取らなくてもいいが、取らないと気持ちが悪い」
 
これを、現代の英検狂想曲に当てはめてみても、まんざらでもないということです。
 2020年以降の小学生の英語必修化、センター試験の代わりに実施される、大学共通テストの一部による、英検やTOEICなどの資格系テストの実施、こうした世の中の趨勢に、親御さんたちが、巷の幼児向け、小学生対象の塾で、英検5級やら4級やらに血眼になっている光景が、資格系‘チャイルド英語ラプソディー’に思えてならないのです。
 
 「英検とかけて、中高の生徒の足の裏に付いたご飯粒と解く」「その心は、取っても取らなくてもいいが、取らないと気持ちが悪い」{※いや皆に取り残された気分になる!}
 
このような皮肉まじりの言葉を吐きたくなる今日この頃です。
 
 では、英検なる資格系テストが、どれほどのものであるのか、私立の中高一貫校の英語教師の中には、その実態を教室内で、オフレコでお話しになっている方もいるでしょうし、当然口には出さずに認識されている方もいらっしゃると思いますが、その内実を語ってみたいと思います。
 私の塾の生徒で、中1から通われている中学生ですが、比較的できのいい部類の事例をお話します。
 弊塾では、中1の終わりに英検3級中2の終わりに英検準2級中3の終わりか、高1の初めには、2級がゲットできてしまう、その、とりわけ、中1の1年間で、英検3級が取れしまうケースをお話します。これは、塾のガイダンスでも語っていることなので、その教室内の光景を会話形式で、分かりやすく述べるとします。
 
父兄A:「先生、この英精塾では、中学1年生の終わりで、英検3級がゲットできると、おっしゃいますが、その1年で、英語(文法)は、どれくらい進むのですか?」
 
私:「はい(笑み)、では、詳しくお話しさせていただきます。英精塾では、一年間で、現在形、過去形、そして、未来形・様々な助動詞、最後に、せいぜい比較級、最上級くらいまでです。英検3級という、中学3年間で学ぶ、現在完了形や受動態、更に、関係代名詞など当然教えません。ですから、<GO WENT GONE>の過去分詞である、<GONE>など生徒は知らないはずです。それなのに、英検3級に合格できるなどとは、不思議に思われることでしょう。では、その点を、詳しくお話しします。これは、一昔前の100点形式の採点方法の方がわかりやすので、そのケースでお話しします。

         <教室内の発言>とご想像してください!
 
 英検とは、3級に関して申し上げると、その問題の6割がリーディングで、4割がリスニングの配分になっています。そのうち、文法読解がメインの問題は、25%は、すでに教えているので、ゲットできます。35%は、未知のゾーンです。恐らく、実力では、ゲットできない問題となるわけです。では、リスニングに関しては、3級の問題は、レベル的に、4級程度のリーディングの英文で読まれます。ですから、その英精塾の生徒は、大方、35%くらいはゲットできてしまうのです。現在形、過去形、未来形くらいで、受動態や関係代名詞など含んだ英文は、3級のリスニングでは、朗読されません。そうすると、読解文法問題25点、リスニング35点合わせても合格ラインの62点~65点ゾーンには届きません。ギリギリ不合格と相成ります。ここがブラックゾーン、グレーゾーンになるのです。英検のマークシート形式が、呼び水になるのです。足りない数点、時には、10点近く、“that whose which who、うん、わかんねえな!ようし、whoseにしちゃえ!”これで、運よく得点できてしまう問題が、その生徒に、幸運にもその生徒に下駄をはかせてくれるのです。「先生、信じられない、3級受かっちゃったよ!こうしたマジックが生じるのです。この事例は、実際4級、5級の小学生にも当然起こっているのが実態だと思われます。
 では、英精塾の中学2年生の終わりの段階で、英検準2級が合格したケースをお話しします。中学2年の終わりまでで弊塾では、一般の公立高校の2年レベルまで英文法は教えます。従って、英精塾のこの中学2年の生徒は、実力的には、準2級レベルには若干のおつりがくる程度まで学習しています。
 「先生、中2のうちに準2級受かったよ!」と喜んで、教室内に入って、報告します。しかし、その生徒とよく、次のようなやりとりをするのです。一種、“勝って兜の緒を締めよ”です。
「山田君、合格おめでとう。では、先生、君の得点当ててみようか?おそらく、64~5点くらいじゃないか?」
「すげ~!64点です、どうして分かったんですか?」
「君、2年近く英語を教えていて、プロの英語の先生なら、それくらい推測できるもんだよ。」 
「ああ、そうですね、そうですよね、なるほど。」
「じゃ、今、君、その英検の準2級の問題持ってるかい?」
「はい、これです」と、山田君は、カバンから、その問題用紙を取り出し、私に手渡す。
「先生、これ、どうするんですか?」
「君の、英語道における、謙虚な精神を呼び起こすためだよ。いいかい、この問題を学校の定期テストのように、全く同じこの問題を、全て、穴埋めや、記述形式に作り替えて、君に来週、出してみようかと思ってるんだ。多分ね、山田君がゲットした64点なんか遠く及ばず、せいせい、35~40点ゲットできれば御の字じゃないかないかな。君みたいな生徒は、名ばかり準2級といって、えばれたもんじゃないんだよ、昔ね、マクドナルドの名ばかり店長という、一種ブラック職場店長が問題になったように、山田君の、今回の準2級のタイトルホルダーなんか、全然自慢にさえならないんだよ。ブラックならぬ、グレー準2級さ。でも世の中の英検X級ホールダーの、恐らく、3分の2は、名ばかりのまま、次の上の段階の級を受け、いい気になっているのが実態さ、でも、高校生にとっては、2級から準1級で、相当の開きがあるから、意地悪く言わせてもらえば、英検5級から2級までは、‘もってけ泥棒’的商売っ気で、資格乱発状態、だから、英精塾では、英検なんかどういでもいいと、ご父兄にお話ししているのさ、大学生や社会人になると、血眼になるTOEICとかも、同じでね、<中学生・高校生:英検=大学生・社会人:TOEIC>の比の関係が成り立つんだ。山田君が、大学生になると、気付くことなんでね、今、TOEICに関しては、お話しません。いいね?」
 
 これから述べることは、私の中高生対象の塾での考えを基とした、想像です。以上の中学生の英検タイトルホルダーを、大学の3年生のゼミ教室に話を広げてみましょう。
 
<某大学の経営学部3,4年生対象のゼミ教室>
その後の社内の状況
 
 「先生!TOEICの点数、800点代に届きました!」とある女子学生(佐藤玲子)が、教室に悦び勇んで飛び込んできます。
 「玲子、おめでとう!」と数名の友人がお祝いの声をかける。
 「ああ、よかったね」と、涼し気な目で、鈴木教授は、ぽつりと声をかける。
 その教授は、内心、“君ね、それはただ就活の際の、一輪の花程度で、実社会では全く使い物にはならないんだよ!”と、微笑んだ顔の、無表情な目から話しかけている声が、教室内の学生たちには聞こえない。
 この学生は、その後、某企業に入社するが、現場上司は、人事部から聞かされていた、「佐藤君は、TOEICで850点も取っているから、英語が大丈夫、今度の外国人の我が社の視察の案内はできると思うよ」という話と、その佐藤玲子のTOEICの点数と使える英語力のギャップに愕然とするのであった。
 
 このようなケースは、世の大企業の幹部や、現場の社員なら当然わかっている実態です。それなのに、先日、楽天の社員のTOEICの点数の平均点が840点などとニュースで報じてはいましたが、まあ、その社員の中で、大切な仕事で使える社員は、想像ですが、3人に1人もいないことでしょう。大学生のキャンパスが、楽天の職場になっただけです。本当に見識ある、賢明な大企業の幹部なら、この現実は喝破しているはずです。ただ、この実態を公表すれば、ただでさえ、語学のモチベーションが低い社員を、ますます‘意識低い系’へといざなう悪効果が予想されるから大々的にはコメントしていないだけです。
 ソフトバンクの孫正義社長、時代は古いですが、SONYの伝説的社長盛田昭夫に、TOEICの試験をさせたとします。900点はおろか、800点代も怪しいのではないかと想像できます。しかし、相手の心を掴む、相手に共感をもたらす英語は、数値では計れないのです。
 このように、資格系テストというものは、この程度のもので、それ以上でもそれ以下でもありません。それを、大学受験の際に、義務づけるとすれば、それに血眼になる高校生の英語力というものは、すっけすっけのからからの状態、英語の実力の骨粗しょう症的大学生を乱発する羽目となるのは、必定で、まともな英語教師なら当然予想がつくはずです。
今は、冷静に考えると、英検・TOEICの資格系テストのバブル期にあります。この資格系テストラプソディーには、ユニクロ、楽天など、平成後期にのし上がってきた企業が、「今度は、世界へ進出だ!うちの社員はグローバルで戦えるという“手形”“パスポート”を持っているんだぞ!」と絶叫し、その様にえばりたい社員をたくさん抱えたいだけに見えます。
 法科大学院が、今ではもうすっかり人気薄状態とあいなりました。恐らく、国立の旧一期校、並びに、早慶中央、そして一橋以外の大学は、法科大学院から撤退することが想像されます。もともと、この制度は、日本の大学システムには、馴染まない、いや、絶対に失敗するであろうと国際弁護士の湯浅卓氏が、あるテレビ番組で語っておられたが、その根拠や理由は、この場では本題とはずれるので、話しませんが、彼の話を聞いて、“ああ!そうだったのね!”と非常に感心したことが記憶に新しい。そうです、この法科大学院同様に、2020年以降の民間‘資格系’試験導入も、10年前後で、いやもっと早いかもしれませんが、同じ運命とあいなるでしょう。数百万円もの借金までして、法科大学院に行くメリット、また、そこに通学したまでの法的学力・実力も担保されない。従って、“予備試験”というルートを経て、弁護士合格する人数が、現在では、ダントツに多い。これと同じ現象、国公立、並びに、一部の私大においても、東大の今般の決断、即ち、“民間英語試験を必須にせず!”の英断に“右へ倣え”現象、法科大学院閉校のドミノ現象と同じことが起こると予想してもいいかと思います。
 
 バブル華やかなりし頃、流通業界では、中内功率いるダイエーと伊藤雅俊率いるヨーカ堂が、スーパーの世界で、凌ぎを削っていた。中内功社長は、「売り上げはすべてを癒す!」と豪語して、薄利多売のイケイケどんどんの超拡大路線、ゴルフ場やら、不動産業、プロ野球球団にまで触手をのばし、バブルの象徴的企業にまで登りつめた。一方、伊藤雅俊社長率いるヨーカ堂は、副社長鈴木敏文の下、「売り上げは上げなくてもいい、利益を出せ!」と業界では、有名な“業務改革”の下、経常利益で、ヨーカ堂単体で、ダイエーと西友、そしてデパートの雄、三越と高島屋の4つの量販店や百貨店を合計した経常利益以上の数字をはじき出した時代を現出させたのです。しかも、ヨーカ堂は、小売業以外には拡大路線には足を踏み込まず、小売業という本業に専念、そして、それを深化してきたのです{※この点こそ、P・ドラッカーが小売業の生産性で大絶賛してもいる点です}。そのスーパーという業態のヨーカ堂も時代の波には抗いがたい、苦境を強いられている現在ですが、その息子のコンビニ王者である、セブンイレブンに、その遺伝子が受け継がれてもいるのです。ファミリーマート{※西友が伊藤忠商事へ譲渡}が、サークKサンクスを買収したり、先日、ディスカウントの雄、ドン・キホーテと業務提携{企業傘下に治める}したり、二階にフィットネスクラブを開設したりと話題になりました。ローソン{※ダイエーが三菱商事へ譲渡}が100円ショップまがいの店舗を展開したり、スリーエフと業務提携したり、ガソリンスタンドとの店舗併設を実験的に展開したりと、苦戦を強いられている一方、セブンイレブンは、ぶれていません。独自路線、一匹オオカミを貫いてもいます。その証拠に、おにぎり、サンドイッチ、弁当、総菜といったものは、絶対にファミリーマートやローソンに勝っているのは、周知の事実です。コンビニの本業に徹しているからです。しかし、便利さのコンセプトも忘れてはいません。セブン銀行など、ATMで都市銀行を凌駕しようとしています。流通から銀行業への成功事例です。その他様々な消費者の利便性を追求し、外資の黒船、アマゾンに唯一対抗できる小売り業の王者にまで登りつめていいます。コンビニの王道を走ってもいる。そのセブンイレブンの生みの親、鈴木敏文氏の言葉です。
 
 「業績は体質の結果である」
 
この名言を、英検やTOEICに夢中の学生や社会人に贈りたいと思います。
健康診断のために、食生活があるのではない、健全な食生活を送っているかのチェックとして健康診断があるのです。TOEICもそうです。将来、世の資格系盲者は、目覚めるにちがいありません。「ちょっと、自身のレベルは、どれくらいなのだろうか?TOEICでも受けてみるか」と健康診断的にTOEICを受けてみるのが、本来のあるべき姿です。そうなれば、日本は、もっと英語が使える人が増えていることでしょう。

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