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コロナ禍で飲食店以上の災厄を被るアパレル業界

 母の実家のある石巻市、私が高校時代を過ごした湊町なのだが、東日本大震災で甚大な被害を受けた。漁業と水産加工業の町である。2011年、日本は、寿司ブームにありながらも、国民全体は、皮肉なことに魚離れが進んでいた。つまりは時代は、<寿司と焼き肉>の時代でもあるということだろう。水産業は、漁獲高の減少もあり、肉食志向もあり、斜陽産業の真っただ中にあった。ちょうどその時期に、あの地震と津波に襲われた。東北の水産業は壊滅的な被害を受けたが、今では、震災前の半分以上は復旧してはいるようである。しかし、地元の老舗水産加工会社などは多くが姿を消した。東北で一、二位を競う漁業の町が、水産業の衰退を、震災により加速度的に一層強めた感が否めない。
 
 『アド街ック天国』を観た。兜町の特集(1月23日)であった。この街は、1999年、株の電子商取引により、立会場が廃止となり、証券マンがいなくなり、それ以降すっかりさびれた街になっていたが、近年、新たに、街が復活している様子にスポットライトを当てて番組構成をしていた。やはり、昼間の証券マンが地元にいなくなると、街がさびれる典型的な現象である。
 
 また、『ビートたけしのTVタックル』という番組(1月17日)を観た。コロナ禍で、外出自粛優先か、経済(飲食店)優先か、それをテーマにしていた。番組出演者の一人、ゲストとして、飲食店代表として、居酒屋を新橋で経営されている元プロ野球選手デーブ大久保さんが出演していた。彼の発言である。
 
 「もううちなんかの居酒屋、飲食店なんか、超赤字、本来来てくれるサラリーマンが、夜はもちろん、昼間さえもいない。リモートワークとやらで、新橋というビジネス街に来ないんです。ホワイトカラーの、エリートビジネスマンが、ランチは当然、仕事後(アフターファイブ)の食事なんかまったくしないから、もう、街は、飲食店はがらがら、地獄ですよ」
 
 そうである。本来なら、サラリーマンの街、おやじの街でもある新橋が、20年前の兜町の運命に晒らされている実態を彼は吐露していた。こうした、現象を、出口治明氏は、《おやじ文化》の消滅とも称していた。
 これは、コロナ禍による、サービス業、特に‘飲食店の生殺し政策’を揶揄した、いや、批判した弁でもある。
 
 東日本大震災という天災による水産加工業衰退のダメ押し、証券業の電子化というデジタル化による兜町という街の空洞化、そして、コロナという中国発のパンデミックによる世界中の飲食店の消滅、これらは、経済史観というものよりも、むしろ、鴨長明の『方丈記』の無常観を思い起こさせてもくれる。
 
 以上の事柄は、時代や社会と‘食’というもののリンク、いわば、宿命的連関といった事象である。衣食住、この中で、一番人間に必須のジャンルは当然‘食’である。従って、今般のコロナ禍が数年後収束した時には、‘食’という領域は、形は違えどもある程度は立ち直ると思われる。では、私が、ここで主張したいのは、‘衣’のジャンルである。
 
 個人的に訳あって、私は様々な新聞に毎日目を通すことができる。全てを読む時間など毛頭ないので、気になる記事をチョイスして読んでいる。
 『日本経済新聞』にだいたい目を通す。言わずと知れた経済全般をメインに取り上げている総合紙である。その傘下にある『日経MJ』(マーケットジャーナル:月・水・金){※昔の流通新聞である}は、比較的時間をかけ読む。でも10分以内である。記事が、トレンドをメインとして、特にサービス業をメインフィールドとする新聞である。セブン&Iホールディング勤務時代から、世の流行などのアンテナとして重宝してきた新聞でもある。この専門誌は、やはり、アパレルとデパート、スーパー、そして、飲食業や旅行、ホテルなどが毎日のように取り上げられてもいる。この1年、飲食店よりもアパレル、デパートの記事が多い。売り上げ激減、店舗赤字、テナント撤退などである。
 さらに、私は業界専門誌、通称‘諸紙’ともいわれるアパレル関係専門誌『繊研新聞』なるものも幸運にも目を通すことができる。この『繊研新聞』を毎日ざっと目を通すと、実は、飲食業界以上にこのコロナ禍で窮地に立たされている状況がまじまじと伝わってくる。
 
 上空1万メートルから<アパレル業界という町>を眺望するのが『日経新聞』だとしよう。千メートル上空から概観するのが『日経MJ』だといえる。では、『繊研新聞』に目を通すと、数百メートル上空からファッション業界を観覧できる思いがする。さすが業界専門紙である。
 
 ご存じの方も多いと思うが、トラッド系のブルックスブラザーズの倒産、ニューヨークバーニーズの日本撤退など、外資系はもちろん、紳士服の青山が、大規模リストラを断行せざるをえない窮地に立たされている。
 
 「スーツ市場は1年で10年分縮んでしまった」(青山理社長)
 
そうである。今やIT系企業に代表されるように、ビジネスマンは、最近ではカジュアルウエアーにシフトしてきている。サマー期間は、クールビズが席捲してもいて、まず、余程の商談の機会でもない限りスーツは着ない慣習が日本社会に根付きつつある。この紳士服業界にとっては、今般のコロナ禍は、東北地方の水産加工業にとっての東日本大震災に該当するものでもあろう。
 
 「スーツ市場はコロナ禍後も元に戻らない」(青山理社長)
 
 一方で、カジュアル路線のユニクロや機能性とファッション性を融合したワークマンの衣服が業績堅調である。
 デパートやスーパーでは当然、令和の時代、スーツはもちろん、カジュアルさえも購入する客は激減している。贅沢品、高級品のみを扱う<銀座シックス>でさえも、今やテナントの撤退が続いている。銀座は、今やガラガラの街模様である。一方、飲食店など庶民性をとどめている新宿、渋谷はそうでもない。
 飲食店は、ファーストフード店から個人の居酒屋に至るまで、全てが減収減益である。一方、特にユニクロだけがこのコロナ禍でありながも、利益は微増ながらあげているらしい。このユニクロという大企業、経済学者浜矩子の“ユニクロ栄え国滅ぶ”ではないが、デフレの象徴であることはいうまでもないが、国民に“コスパ思想”を植え付けた張本人だと口にする者は少ない。サプライチェーンと称して、10年以上前から、平成不況に付け込んで中国は日本だけでなく世界中に今般の‘武漢熱=コロナウイルス’のみなならず、“デフレ”までをも輸出していた、ばらまいてもいたのである。それにより、日本には、柳井正という日本一の資産家を生み、アメリカにはトランプという鬼っ子まで誕生させるに至った。

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