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入試システムから見える上智大学の"横顔"

  最後に、これも受験参考書の老舗、文英堂から出されているバードランドなるものを取りあげます。この非検定中高一貫校対象のテキストも、クラウンやニュー・ホライズンという検定教科書の弱点、文法事項の足りなさを十分補い、受験英語の視点では、ニュー・トレジャーほど高校英語には踏み込んではいないにしろ、通常の文科省検定の教科書よりな随分マシな作りになっています。このバードランドとニュー・トレジャー並びにプログレスとの決定的な違いは、3巻、即ち、中学三年までを対象としている点にあります。つまり、使える英語、基本的な英会話に比重を置いた編集にもなっている観がつよいのです。ですから、この編集路線では、大学受験を考慮した、また、つながったつくりには限界点があるといってもよく、よって、中学生対象のテキスト3巻止まりとなっている学校が多いのが特徴でもあります。
 ここで、ですが、このバードランドの編集者が、上智大学教授の、吉田研作という、英語教育リベラル派なのです。この方、今、最も注目を浴びている、2020年度からセンター試験廃止後に、英語の外部委託問題の最右翼に躍り出ている資格試験、TEAPの中核編集者(※ある意味で生みの親とも言える人物)でもあります。上智大学が、学校英語とTOEICを融合して、英検を、またGTECをライバル視して作ったものが、TEAPでもあるのです。上智大学という語学ブランドの大学が作成したものとあって、日本中の大学は、これに飛びつく傾向が高まっているのが最近の傾向です。
 多くの親御さんもご存じかと思いますが、英語教育リベラル派の総本山{※そこで、英語教育の守旧派渡部昇一氏が英文科で長年教授を務めてきたことが私見ながら不思議で、皮肉めいている}である、いや、そうであるからこそ、上智大学を目指す女子高校生が非常に多いのです。これから、私の塾の教え子を例にとって話をするとしましょう。
 まず、この上智大学は、現在、一番入りやすいルートは、推薦制によるものです。指定校推薦で漏れた者は、公募推薦に走ります。これでも駄目なら、TEAP受験でいい点数を取ろうと方向転換に躍起になります。そして、最後に、仕方なく、2月の一般入試へと突き進んでゆくのです。こうした4段階方式で、上智にあこがれを抱く女子生徒は、昔の早稲田“志望”右翼の男子学生と同じように、なにがなんでも四谷のキャンパスを目指すのです。これが、私の教え子の上智“登山”ルートでもあります。その上智大学の学部でも、とりわけそうしたルートで入ってくるのが、総合グローバル学科という歴史の浅い学部であります。我が子にキラキラネームをつけるがごとく、カタカナ今風ネームの学部でもあります。ある意味、学生数の減少、そして、古典的名称の学部、即ち、英文科や外国語学部、法学部、経済学といった看板学部の書き換えが目に付くご時世の中で、“そんな専門、興味ないし、自分の好きなことだけできれば、それにちょっと外国語もできるようになれる感じで、国際的でもあるし~!”こんな、漠然動機の、一種、“知的にチャライ女子生徒”をも受け入れかねない看板の学部となっているのが現状でもあります。ただし、これは、上智大学だけのことではありません。
 「入試問題は、その大学の顔でもある」と名言を述べたのは、かの伊藤和夫ですが、この説に従うならば、上智大学の二面性を指摘せずには、いられないのです。
 まず、TEAPなるものを主催する大学が上智大学という点なのです。このTEAPで出題される問題は、学校英語以上、標準的受験英語以下、このレベルに属する問題なのです。一般的に言わせてもらえば、英検2級と準1級の中間レベルとも言え、至って、良問の範疇にはいると言えます。この路線、非常に良心的です。しかし、であります。旧態依然、上智大学の2月実施の一般入試問題の英語、特に、文法問題などは、難関的受験英語、悪問的文法問題の権化とも言えのです。長文にしても、TEAPの比ではありません。格段にレベルが違います。一般女子学生は、なるべくなら、学校英語で内申を上げて推薦に持ち込む、それがダメなら、TEAPで少しでもセンター試験的路線で高得点をゲットして合格へ辿りつきたい。できたら、あの赤本の帰国子女対象的英語問題とは関わりたくない。そうした本音が、教え子から透けて見えてくるのです。
 そうです、TEAPという標準的な問題を近年主催しておきながら、旧態依然の受験の難問を2月に課す、そうした上智大学の、日本の受験制度への、八方美人的側面が透けて見えてくるのです。おそらく、一番の原因は、文科省への受験的忖度であり、受験の入試制度の主導権を握ろう。これが、TEAPとやらに表れているのです。しかし、質のよい、英語が大学生になり伸びしろが担保できる高校生をゲットしておきたい、そうした本音が、赤本の過去問が正直に物語ってもいます。そうした一発入試組の、伸びしろのある高校生、その見本みたいない人物、それが、カリスマ予備校英語講師、安河内哲也氏でもあります。
 付属系の大学の例を挙げますと、これもあくまで一般論ですが、慶應を幼稚舎・中等部から入ってきた者、これが、大学で一番英語ができない{※あくまでも英語という科目に限ってです}、高校から入ってきた者、これが次にできない。そして、大学から入ってきた者、これが、キャンパスで英語の単位を落とす割合が一番少ないと言われています。これと同列で、上智に推薦で入ってきた高校生、これが一番伸びしろが少ない。次に、TEAPで入ってきた高校生、これが、そこそこ英語が伸びる。そして、一般入試で入ってきた高校生、これが、伸びしろが一番あるとも言われます。この上智の例を見るまでもなく、文科省が、英検やTEAPやTOEICなど外部委託で資格系英語入試問題へと2020年に方向転換するようですが、もっと、英語ができない高校生、大学生を生み出す暴挙であることをお役人は、元文科大臣下村博文は、わかっていなのでしょうか。
 最後に、大学の系列化の話で、この章は閉じるとしましょう。
 私の住む横浜市にある、元山手女子学院は、中央大学の付属校の軍門に下りました。都筑区にある中央大学付属横浜校とやらに姿を変えたことです。また、南区にある、横浜英和学院という女子校も、近年、青山学院の系列校へと変わりました。青山学院横浜英和学院という長ったらしい名称の共学校へ看板を書き換えたことです。高校が、大学の草刈り場ともなっているのです。早稲田大学も、九州や関西に系列校を設立しています{※余りうまくいってはいないようです}。また、慶應幼稚舎も、横浜青葉区に東京以外で2校目の設立をみました。こうした、大学による、中等教育、初等教育への囲い込みが、近年目を見張るものがあります。少子化への学校当局の自己防衛の表れでもあることは想像に難くありません。公立ではなく、私立で、質のよい中等教育を施し、質のよい大学生を輩出したい野心の表れでもありましょう。こうした教育界の風潮に、おそらく、上智大学も手をこまねいてはいないでしょう。推薦から、TEAPから、さほど伸びしろのない高校生をスカウトしても、良質の社会人へと育てられる可能性が低いものです。一般入試組が激減してゆくキャンパスの光景を上智の学長や理事長といった方々は、手をこまねいてはいないでしょう。多分、早くて数年後、遅くても、十数年後、同じカトリック系の中高一貫校、特に雙葉や白百合を上智大学の系列校にする方針を表明する日が来るに違いないと言えます。

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