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コラム

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「英語で大切な単語は何ですか?」に"基礎"が顕在化する

 これは、弊塾で生徒にいつも語ることです。
 
「英単語の中で、一番大切な語、ベスト3を挙げてみなさい、何だと思う?」みな、唐突にきょとんとして、返す言葉、挙げる単語が浮かばない表情をする。
「それはね、It とThat とAsだよ!」と応える。
 
 この問い、高校1年生の初等科のクラスだと、禅僧が若い修行僧へ公案を投げかけ、苦悶するとまでは言わないが、悩まし気な表情をする。しかし、これが、高校3年の高等科のクラスの生徒の表情ともなると、ニヤリとしたり、頷いたり、目の表情が変わったりするのです。ここに、英語の成長、英文法から英語構文への上昇、英語の級という白帯から有段者という域の黒帯のメルクマールともなる。
 
  ここでは、詳細には語りませんが、これらの語は、多義語であり、多機能語でもあります。しかも、これらは、まず、英和辞典で調べる種類のものでもありません。文章の結節点ともなり、ある意味、この三語を手掛かりに、難解な名詞、不明な形容詞、紛らわしい副詞などを、推測したり、峻別するのです。
 まず、難しい名詞の単語があり、また、多義語でもある時、「先生、このXっていう単語の意味、何でしょうか?」と職員室の英語の先生のもとへ聞きに行くことはあっても、「先生、このThatは何ですか?」などはあるにしろ、「このAsの意味は何ですか?」とその先生に質問するケースはまずまれでありましょう。「このItは、何ですか?」「このThatは、品詞は何ですか?」くらいの質問するくらいならまだしもですが。それすらも、少々、中途半端にできるくらいの生徒に限り、恥ずかしくて質問はできないものです。ましてや、「先生、このItって、Thatって、辞書引いてもどれかわからないですが!」と質問するものなら、「お前、勉強が足りない!基礎から英文法をやり直せ!」と小言を言われるのが、無責任な教師の返答でありましょう。
 
 ここででありますが、基礎というものに立ち返りましょう。高校生を基準に申します。難しい名詞、動詞、形容詞などをたくさん覚えることも当然必要ではありますが、こうした、中学生ででくわす、基本英単語、それも、多義語のものならず、多機能語をも習得することが、基礎と言いえるものです。例えば、Itに関してです。
 
  It 前出の語句を受けるIt:入門編・非人称のIt(時や天気など):入門編
    It 仮主語のIt:初級編
      It 強調構文のIt・非人称のIt(状況):中級編
      It 以上の様々な機能を俯瞰する文法の“鳥の眼”:上級編
 
  こうした自覚を、せめて高校1年の終わりまで、マクロの目で英文を<観られる頭>が、基礎があるともいえる側面である、それを私は、fundamentalと何度も指摘しているわけであります。生徒たちに、おやじギャグを言います。「Itは、“いと”大切なり!」これ、「基礎は、とても大切である!」の同義的教訓なのです。このItをなめてはいけませんよ!というメッセージでもあるのです。このIt、一見簡単そう(basic)に見えて、実は、奥深い、それが、真の基礎(fundamental)ということです。
 
  ここで、少々脱線しますが、『東大入試問題に隠されたメッセージを読み解く』(駿台予備学校英語科専任講師 大島保彦著)〔産経新聞出版〕の中に、次のような一節“東大合格者の英語の語彙は少ない”が書かれています。
 
 「東京大学の入試は、日本の大学入試問題の中で最も難解である」
 そう思っていませんか。はっきり言いましょう。それは、間違いです。
 駿台予備学校で東大を目指す生徒のクラスでは毎年、入試本番を3カ月ほど後に控えた秋口ごろ、こんな光景が見られます。
 東大を志望する高校3年生の大半がそのころ、併願する可能性のある早稲田や慶應義塾大学の過去問(過去の入試問題)に初めて挑戦するのですが、多くの生徒が、早稲田、慶應の過去問をみて体が固まるように衝撃を受けます。
「む、むずかしい…」と。
典型的なのは、英語の読解問題に登場する単語の難しさでしょう。各所に出てくる英単語が難解。それも「どこかで見たことがあるなあ」というレベルではなく、「こんな単語ありましたっけ?」と言いたくなるものもあります。
 
 省略
 
 早稲田や慶應、上智大クラスの私立専願組に比べると、東大合格者の語彙数は圧倒的に少ないのです。実際、私立大学を目指している生徒に東大の英語入試問題を見せると、「えっ、なんでこんなに単語が易しいの?」と驚かれることがあります。
「東大合格者と帰国子女は、知っている英単語の数が多くない」というのが真実の姿でしょう。
 ただし、念のため。「知っている英単語の数は多くない」というのは、英語が苦手という意味では決してありません。彼らは、英単語の「運用力」が優れているのです。そして、運用力に相当する「学力」が、合否を決めるカギとなっているわけです。
 東大の入試問題は語彙数ではない。逆に言えば、そこに東大の入試問題のすごさあるのです。                   (P16~17より)
 
 この観点は、何も、英語だけに限りません。文系科目の世界史や日本史の論述問題などは、まさにそこを突いてくるのです。この大島氏の見解、それが、東大生がよく口にする「基礎が大切だ!」、これの真意でもあります。
 
  この大島氏の本、平成25年版なので、令和の共通テストなど、また、それに付随するように変質した、東大二次の英語問題の豹変、東大受験生の気質や資質の変化なども、センター試験の平成とは異なってもきています。東大生の親の年収は、早慶の親の年収よりも多いという傾向から、近年は、東大生も、早慶上智受験生に負けず劣らず英単語の数は、むしろ、逆転してきているように私には思われます。
因に、この逆説的意見、基礎の大切さ、基礎の難しさ、それを証明した参考書、それが、カリスマ英語講師関正生氏の『東大英語の核心』(研究者)であります。彼は、やはり、東大の英語は難しいと結論づけています。一読すると、剣豪でも、柳生石舟斎(東大の英語)と宮本武蔵(早慶の英語)の、剣のでき度、剣の極め度の違いともいっていいかも知れません。英語問題の奥儀が解っている人こそ、その東大の“良問度”がわかるというものです。
 
  これからも、おわかりのように、『ターゲット単語集1900』や『システム英単語』、その次の段階の受験生の究極必須アイテム『鉄壁』{鉄緑会が出しているこの単語集が、東大生も語彙力が増えてきた一因でもある!}などが、近年、ブームなようですが、また、英文の量の多さ(超長文)への移行傾向、また、論説文や思想・哲学的エッセイより、科学的、時事的、社会的英文など、同時代性を加味した英文の出題傾向からしても、英検1級をも視野に入れた多彩な単語力の必要性は高まってはいても、こうした、基本英単語、わざわざ辞書で、意味を引くまでもない単語の自由自在性というか、融通無碍性ともいいましょうか、そうした、英文法の項目を縦横無尽に有機的に認識できる、考える英単語への眼という側面は、依然として必要なのです。
 
  これは、まさしく、前置詞に関しも言いえるものです。
さきほど言及した、大切な英単語ベスト3の次に、教え子に、大切な前置詞ベスト3を挙げなさい、こうした質問もプラスαでするのです。もちろん、彼らは、応えられません。
 
  「英語で大切な前置詞ベスト3とは、with  of  asですよ!」と教えるわけです。これは、このコラムをお読みの方で異論がある方がいるやも知れませんが、あくまでも私の私見であります。理由は、この場で申しあげれば、ちょっとした、前置詞の解説となってしまうので、その根拠は割愛させていただきますが、分かる人は、分かるはずです。これも、英文読解上、非常に大切な、意味の分岐点、読解の急所の分水嶺ともなる指標であります。
 
  ここで結論を申し上げましょう。英単語で大切な語ベスト3は、ItとThatと Asと申し上げました。次に、英語の前置詞で大切なベスト3は、withとofとasと指摘しました。そこで、生徒たちに言うわけです。「英語で一番大切な単語は、実は、ASですよ!」この真意を了解してくれている教え子は、英語ができる!英精塾の英語有段者の黒帯を与えています。バブル期前夜、エズラ・ヴォーゲルの『Japan As №1』が世界を席捲しましたが、これを捩って、“As アズ ナンバーワン”とも申せましょうか!
 ここで強調しておきます。基礎とは、基本的、一見やさしいもの、なめてかかりたくなる装いをしているものです。そうした知識をただ知っていることではない、その意義、重要性、その奥深い機能といったもの奥儀を弁えている、学びにおける心的態度、ひたむきな姿勢、それこそが、fundamentalともいうのです。

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