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数学随想➁

数学嫌いを減らす処方箋

 

 

 日本では、世にいう数学(算数)の753なる言葉があります。ご存じの方も多いと思いますが、小学校時代、算数が好きな生徒は、全体の7割、中学時代は5割、そして高校生ともなると3割しか数学好きな人がいなくなる現象のことを言うそうです。

 

小学校の算数は易しすぎる!~算数のゆとり教育の園~

 

 この数学の753なる現象をどう読み解くか?まず、考えられるのは、小学校時代の算数は、標準以下、到って易しいレベルのカリキュラムが設定されていて、落ちこぼれがほとんど生じていないことの現れでもありましょう{※ある程度のレベル以上の生徒に関してです}。つまり、小学校では、特に公立校では、足し算・引き算・掛け算・割り算、そして分数・少数、次に百マス計算など、また、面積・体積など、中学受験レベルの一歩手前レベルで抑え、一種、“数学”のゆとり教育が実践されている証拠でもあります。落ちこぼれを出さない、将来大人になった時の生活に必要最小限度に制約した算数というものを教えてもいるからでもありましょう。

 

中学校の数学も易しすぎる!~数学ⅠAに進まず足踏み状態~

 

 次の中学の段階ともなれば、数学愛好派が5割に落ちる。これは生活に密着した算数(具体的数の世界)から生活から乖離してくる、抽象的次元のXやYというもの、更に、√などの記号や二乗、三乗といった小学校では、お目にかかったことのない数の(学問的)世界に足を踏み入れる、ある意味、数字という‘外国語(未知の領域)’を学ぶ段階{※算数:国語=数学:英語的関係}に入ることが、その原因であると考えられます。

 

高校数学は学ぶ量と難度が急激に上昇する!~高校数学にいびつに偏り過ぎ~

 

 最後に、高校数学とされている、いわゆる、数学ⅠA,ⅡB、ⅢCとやらの世界です。高校生の半数以上が、挫折の経験をもつ数の学問的世界でもあります。数学好き派が3割とも言われてはいますが、本当に面白い、好きだと言える前向きに学ぶ生徒は、つまり、数学積極派は2割にも満たないのではないかと思われます。

 

数学の753現象が起こる原因

 

 では、何故こうした数学の753なる現象が生じるのか?それを考えてみたいと思います。私の仮説でもありますが、それは、小学校から高校までの12年間に習う項目、カリキュラム、また、教えるシステムに問題があるように思えてならないのです。

 話しは飛びますが、2020年度から小学校3年からの英語の必須化が決まりましたが、「6年間では、英語を身につけさせるには、無理がある。韓国や中国も小学校の低学年からだ。よって、日本も英語を早期から始めればいい」この論理がベースとなり、英語の小学校必須化が決まったもようであることは想像に難くありません。これは、小学校教員の英語運用能力を考慮したとき、時期尚早だと言われる意見があっても文科省は、関係なしです。そうした意見無視の見切り発車です。実は、英語教育の早期開始以上に、また、それ以上に大切なこととして、私は、小学校の6年生から数学を始めるべき論を提言したいと思うのです。英語のアルファベットにも違和感のない令和時代の小学6年生に、算数ではなく数学を教えるべきではないかと、英語以上に、その大切さを考えてもきました。

 

小学生に数学の初歩を教えるべき!

 

 2019年3月11日の朝日新聞の特集『中学入試 方程式はNG?』で、中学入試の問題を、XとYを用いて解くことは、是か非かのテーマで、特集を組んでいた記事が印象深く残っています。私立の中学校の回答では、ほとんどが、解き方や解答に問題がなければ、よしとする判断が大勢でありました。しかし、学校(公立小学校)や塾(日能研)では、ストイックに、校則のように、やたらとXとYは使わないという建前を強引に押し通しているところがほとんどなのです。この採点側の私立中学校と受験側の公立小学校・進学塾の見解の違い・開きに不可思議の念にとらわれざるをえないのです。

 超標準的私立の中高一貫校で出題される、スタンダードな鶴亀算・旅人残・流水残などは、もう、XやYを使用すれば、即、解答できてしまうものです。超有名にして難関校の算数の問題などは、XやYなどを使用できない部類の問題、一種、“和算”の流れを汲む、真の地頭を試すような問題で構成されているのです。ある意味、「XとYを使って解けるもんなら解いてみろ!」的メッセージすら感じさせる問題です。よく、がり勉で東大に入った学生か、そうでない学生かを試すには、灘や開成の算数の問題を解かせるとはっきりと分かるというエピソードも、まんざら嘘でもない、そのことを言い当ててもいます。

 算数のカリキュラムは、4年生までで代数的演算能力の完成をし、5年の段階で、スタンダードな中学入試レベルの‘~算’的問題を文章題として、また、標準的な図形問題を算数的見地から演習させる。そして、6年生の段階になったら、5年生の段階で、手足を縛られたかのように、苦悶して少々難しい文章題や図形問題を解いていた彼らに、XYの使用OKのゴーサインを出すのです。つまり、数学を学ばせるのです。彼らは、数学の便利さに瞠目するはずです。「数学って、XYを使うと、去年(小5)まで解いていたあの問題が、いとも簡単にとけるんだ!」と心で快哉を叫ぶことでしょう。ここで、中学段階の数学好き派が、5割どころか、6割強になっているはずです。そして、中学の2年生までで、従来中学で消化すべきカリキュラムを終了してしまうのです。公立の中学校でも、中3から数学ⅠAを履修させるのです。すると、高校の段階の3年間で数学ⅡBと数学ⅢCを2~3年かけて学ばせればいいわけです。そもそも、高校数学が、中学数学に比べ、いびつに難しくなり、学ぶ量も膨大に膨れ上がります。これこそが、高校の数学好き3割派の原因であり、私立文系に高校1年、遅くて高校2年に生まれてくる大きな原因なのです。

 公立の高校受験(湘南・翠嵐)、また難関私立高校受験(開成高校・慶應高校)にしてもそうです。そうした高校を目指す公立の秀才中学生は、数ⅠAの一歩手前で、中学校で習う範囲の超難問、つまり、『高校への数学』(東京出版)に掲載されている問題をこれでもか、これでもかと塾で解きまくっているのです。いわば、中学数学の足踏み状態が続くのです。そして、翠嵐や慶應に入ってくるのですが、彼らの中には、中学数学燃え尽き症候群になっている生徒が意外にも多いのです。これが数学嫌い7割の予備軍ともなっているのです。

 

慶應中等部の生徒が慶應高校入試の英語が解けないように、数学の問題も解けない!

 

 私の教え子で、東工大に進んだ聖光学院のH君の弁ですが、「開成や慶應附属の高校入試の問題、即ち、『高校への数学』(東京出版)に掲載されている問題なんか、ほとんど解けないよ」と漏らしたことがありました。この言葉の真意は、聖光学院では、一般の中学3年間の範囲を1年半で終了、そして、中3の終わりには、数ⅡBの中間あたりに入っているそうです。その聖光学院のカリキュラムには、痩せ我慢的に、馬鹿正直に、中学校時代は、数学ⅠAに進まず、中学校の数学の難問を繰り返し・繰り返しする愚策などせず、さっさと次の段階に進む賢明なる方針があるのです。

 

 私の数学観、いわば、小学校6年から中学校の数学を教えるべき論ように、この聖光学院などの超進学校は、中学3年の段階で、すみやかに高校数学の半分の領域に足を踏み込ませているのです。

 聖光学院の生徒は、理系は当然、ほとんどセンター試験を利用する国公立志望者です。数学など捨て科目とする生徒は、極少数派であり、肩身の狭い‘日陰者的聖光生’でもあります。

 英語の小学校からの先取りがあって、何故、数学の小学校からの先取り(抜け駆け)が許されないのか?そのタブー的謎へ踏み込んで、その具体的処方箋をこれから述べてみたいと思います。(つづく)

 


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