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コラム
数学随想④
高等教育大衆化の成れの果て
バブルも弾け、平成も後半となり、共通一次からセンター試験へと移行し、私大も多くが参加する入試形式ともなり、さらに、国公立大学でさえもアラカルト方式でつまみ食いのように好きな科目だけ受験できるシステムになりました。しかも、少子化で、大学経営も視野に入れざるおえなくなったのか、客寄せパンダ方式に1科目やら2科目やらの楽受験スタイルが蔓延してもいます。ホリエモンこと堀江貴文氏の主義「好きなことだけやればいい!」的現代若者気質が、中高生にも影響を及ぼしている時代の風潮が更に、理系離れを加速させてもいるのです。
政府や文科省、そして、学校も生徒の理系離れが大きな問題であると指摘していることは多くの御父兄の耳にも当然入ってくる今日この頃です。
面白い理科実験でも理系離れの予防策にはなりえない!
この理系離れを、商機ととらえているのか、ベネッセやら学研やら教育産業の雄が、巷に小学生サイエンス教室だの、子供理科実験教室だのを設けて、特に小学生に理科の面白さを売りにビジネス拡大をしていることは、よく知られています。こうした教室なんぞは、ちっと裕福なご家庭のプチ贅沢な習い事の範囲を出るものではありません。つまり、幼児期から、そして、小学校低学年から、高額の英会話スクールに我が子を通わせるのと同じであります。
また、テレビなどで有名になった理科実験のカリスマ米村でんじろう先生の実験なども多くの親子が観ては、「理科って超面白い!」と感動はするものの、その後、その感動を、物理や化学に、真摯な座学へとつないでいった少年・少女たちがどれほどいるでしょうか?
幼少期、小学生で楽しい英会話を学び、その後、英語の使い手として成長し、実社会の英語の達人として名を馳せている者がどれほどいるでしょうか?子供時代に海外にいた人は例外です。英会話スク―ルではアメリカ人に数時間接して、自宅では、こてこての日本人の両親に四六時中接しているという設定でのことを留保した上での話です。
理科の実験教室は英会話スクールと同じ!
実は、面白い実験をすれば、将来理系に進むと短絡的思考で主張している親御さん、教育者が、そして、子供時代に楽しく英会話の体験をさせれば、将来英語を前向きに習得すると楽観的に考えているお母様、英語教師が、実は、世の新聞社系の販売部数目当てのコピー<小学生から「新聞」を読む子は大きく伸びる!>をまともに考えている部族と同じに思えてならないのです。中室牧子氏{『「学力」の経済学』の著者}の見地から言わせてもらえば、元々地頭のいい、IQの高い子が、たまたま新聞を前向きに、親の指導の下に読んでいるデータをひっくり返して主張しているものと実態は同じなのです。物事の真実を逆転的に言い換えてもいる、体のいい牽強付会論とさえ言えるものです。
何がいいたいのか、それは、こうです。どんなに楽しい理科の実験を生徒にやらせても、それ以降の物理や化学の数式や計算、時に公式を必要とる理論の世界の基盤を構築する段階へ、前向きに足を踏み入れる生徒など僅かであるということです。
理科よりもます数学を!
理科離れの究極の処方箋、即ち、抜本的対策、それは、数学嫌い、数学離れを食い止めることにあるのです。数学嫌いで、理科嫌い、こうした生徒は、全体の90%は該当します。理科嫌いで、数学嫌い、これもほぼ同じ比率で真実でしょう。しかし、理科好きで、数学好き、これは、50%前後くらいには該当できるのではないかと推測されます。これは、理科が生物・化学・物理というようい種類・特性が違ってくるゆえに、若干低くなります。では、数学好きで、理科好き、これは、特に物理や化学に限って言わせてもらえば、90%近く当てはまるとさえ言えるのではないでしょか。
「急がば回れ」同様に、“難から易へ”、これこそが学びの王道なり!
実は、こうした、生徒の内面における学びの心的態度は、真にという枕ことばを前提に言わせてもらうならば、英語に関してですが、話し・聞く能力に長けている中学生が、高校生や大学生になって、書き・聞く能力をそれに劣らず伸ばし続ける可能性と、書き・話す能力に長ける中学生が、高校生や大学生になって、話し・聞く能力をブラシュアップし続ける可能性とを比較した場合の事例と比較した時、理科実験が先か、理科(理論)学習が先か、言わずもがなです。理科学習が優先か、数学学習が優先か、これも、私流の考えでは、当然な結論ではありますが、言わずもがななのです。
理科離れを食い止める、究極の策は、数学離れ・数学嫌いを防ぐことにあるのです。
英語という外国語を、母国語を学んだあと、勿論例外はありますが~シェリーや宇多田ヒカルのケースのような場合~、読み・書き以上に聞き・話す能力など身に付きはしないのです。ピラミッド型の3層構造、底辺が日本語、ミドル層が英語の読み・書き能力、そして、上層部が英語の聞く・話す能力という仕組みであるのと同様に、理系の学習構造も同じです。底辺が数学、ミドル層が物理・化学の理論(座学)、そして、上層部が物理・化学の実験となっているのです。
これは、少数派の一般論ではありますが、易から難は、行い難い、難から易は、実践し易いものです。東工大の教授から専門学校の講師になるのはたやすい、しかし、専門学校卒の講師が、東工大の教授になる可能性は、極めて稀、皆無であることと同義であります。
江戸時代の素読の慣習、即ち、子供時代に意味も分からず論語の世界をただひたすら暗唱していた武家や商人の子弟が、成長するに従って、社会・世間という実験の場で、その内容の真実性を検証してゆく人生上のプロセスは、知識や暗記が軽視される平成・令和といった時代では、実験よりを理論を、理科より数学を、英語よりも日本語を、英語の話し・聞くより英語の書き・読むことを、それぞれ重視・優先しなければならない真の学びの流儀・規矩といったものは理解しがたい学習スタイルになりかけてもいるのです。よくポピュリスト的教育評論家が、それは‘エリート教育だろうが!’と批判するのを覚悟の上で申しているまでです。そう言い張る部族は、高等教育が大衆化すればするほど、実は、その国力が、その国の科学力が衰えてゆく学問上のパラドックスに気がついてはいなのです。彼らは、いわば、アルコールランプで、石綿の上で温められているビーカーの中にいる茹でカエルと同じ存在であることを付け加えておきましょう。
2019年6月25日 17:38