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早稲田の政経の数ⅠAは吉とでるか凶とでるか?

 だいぶ前のことです。セブン&アイホールディングスができる以前のことです。セブンイレブンとイトーヨーカ堂が東証一部上場企業として、別々の株価を示していた時のことです。セブンイレブンは、当時コンビニエンスストアの雄として、また、コンビニ商品の革新性が追い風ともなり株価が7000円前後を示していました。それに対して、ヨーカ堂は、スーパーという業態の、斜陽化、特にユニクロなどの台頭で、衣料品部門が見るも無残に収益悪化、もう量販店のみならず、百貨店をも衰退産業の末路を辿り始めた頃でもあります。ヨーカ堂の株価は当時3000円後半をうろうろしていました。
 西武やそごうという百貨店が、イトーヨーカ堂グループに買収された頃でもあります。セブンイレブンやヨーカ堂、そしてデニーズ、さらに西武やそごうもすべて一つの持ち株会社、即ち、セブン&アイホールディングスという持ち株会社が生まれました。そして、その株価は、4000円台前半になりました。
 当時、セブンイレブン株を所持していた株主は、3000円近く目減りです。ヨーカ堂株を有していた株主は、1000円ほどプラスとなりました。前者は、特に海外の株主は不平不満たらたらです。それに対して、ヨーカ堂という落日企業株を持っていた株主はニコニコでした。勿論、この持ち株会社は、ヨーカ堂の子会社セブンイレブンという優良企業の海外資本家からの買収防止策でもあったのです。ホリエモンこと堀江貴文氏がフジテレビ(優良企業で稼ぎ頭)を買収しようとした際に、その親会社であるラジオ局ニッポン放送(成長の見込みがないが買収お得企業)という親会社を買収した方が手っ取り早いと考えたのです。そうしたM&Aの盲点的買収手法を防ごうとしたことが持ち株会社ブームの端緒となったとも言われています。
 
 
 なぜ、この株価の話しなのか?早稲田大学の政治経済学部という、日本では異質、特異とも思われ、これまでそのエリート性から、何の疑問も抱かれず、私立大学の偏差値最高峰といった栄誉に浴してきた学部に触れてみたいと思ったからです。
 
 
 そもそも、早稲田の政経の学生は、どういう学生気質が母集団となってきた学部でしょうか?恐らく、東大や一橋のすべり止め、“早稲田でも”・“”早稲田しか”といった、消極的私大志向の学生が、英国で入学してきたと考えられます。それに劣らず多いグループは、世に有名な“早稲田右翼”の学生であります。数学は苦手、しかし、何が何でも英国、早稲田一(日本一)の私立偏差値最高峰学部を目指してきた学生であります。
 早稲田の政治経済学部という異質・特異な学部の立ち位置にこれまで疑問を投げかけてきた教育評論家は聞いたことがありません。それは、政治学部という、ある意味、数学が一般的に必要とされない学部と数学が必要な学部をいっしょくたにして、学生を選抜する奇異さでもあります。慶應の経済部法学部、数学受験があるなしと分かれます。東大は別格ですが、文Ⅱ(経済系)と文Ⅰ(政治系)では、受験の際、志願で別門であります。この早稲田の政経に関して言えば、同門なのです。この数学ⅡBまで絶対必要学部と不必要学部が同じ受験の同門ルートにある特異さなのです。
 
 
 実は、早稲田の政経学部の受験偏差値の異常な高さのマジックは、セブン&アイホールディングスの株価に似ていると思えてならないのです。セブイレブンの7000円の株価が、数学受験で入学してくる早稲田生で、“早稲田でも”“早稲田しか”学生であり、ヨーカ堂の3000円の株価が、社会という科目で入学してくる“早稲田右翼”学生であります。その両者がない交ぜとなって株価が4000円台後半ともなっているのが早稲田の政経学部の偏差値マジックに思えてならないのです。
 
 
 今般、早稲田大学の政経学部で、特に、田中愛治総長がイニシアチブを取って、2021年度から、政経学部で、数学ⅠAを必須とする決定をくだしました。田中総長は、本来ならば数学ⅡBまでにしたかったそうですが、回りの大反対{※数学など政経では不要派}で、妥協策として、ひとまず数ⅠAまでにおさまったという経緯があったようです。
 しかし、私に言わせれば、政治学部はいいにしろ、経済学部で数ⅠAどまりにして、これまでの、文系資質の多い政経生とどれほど違う学生を集められましょうや?経済を本格的に学ぶには、最低でも数ⅡBまでは身に付けていなければならないと、素人の私でさえも聞き覚えがあります。慶應の経済学部や商学部でも、数学ⅡBまでは、受験必要範囲です。理系離れ防止・数学未履修秀才回避、グローバル化に向けて文理融合の必要性など、田中学長は述べられてはいますが、その本音のところは、世の教育ジャーナリズムなどが指摘する、早稲田の政経という、日本一私大で偏差値の高い学部が、慶應の法学部に追い抜かれ、また、早慶両方合格者{早稲田の政経と慶應の経済や法学}の8割が、慶應に入学するという、数十年前には考えられない現象が原因ではないかということです。
 このたびの早稲田の政経学部の数ⅠAの必須化は、2020年度の英語新テストにより民間試験、例えば、英検2級程度で構わないとされる緩い基準同様に、学生資質の純文系から理系へのシフトなど、決して起きはしないと断言できます。むしろ、これまでの、東大・一橋志望の学生で、これまで以上に理系資質の薄い国公立志望の学生、即ち、“早稲田でも・早稲田しか”学生を呼び込みかねない事態となり、さらには、これまで以上に早稲田愛の薄い、“早稲田中道右派”を生み出す要因になるであろうことは容易に想像がつきます。
 早稲田大学の改革とは、グローバル化とか、理系重視とか、研究力を高め世界50位以内の大学を目指すとか、そういったキャッチフレーズを掲げて、時代や世の中の注目を浴びようとはしていますが、それが、実は、早稲田大学というアイデンティティーを薄めて、魅力ある大学、個性ある大学からますます遠ざかっていく方針のように思えてなりません。
 こうした改革のジレンマは、一見して成功しているかに見える早稲田大学の国際教養学部や文化構想学部といった学部が、明治政府の鹿鳴館であるかのように、みたくれのグローバル化、みたくれの時代への適応化、そうした学部に思えてならないのです。
 早稲田の政経学部の入試における数ⅠAの必須化も、みたくれ理系重視、まやかし文理融合リベラルアーツ、そうした強調のアドバルーンにならないことを願っている次第です。

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